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高松地方裁判所 昭和39年(行ウ)6号 判決 1965年3月27日

原告 設立中の有限会社城南タクシー

被告 高松陸運局長

訴訟代理人 村重慶一 外二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告代表者は「被告高松陸運局長が原告に対し、昭和三十七年九月一日付高陸自認第一二二七号をもつてなした、原告の同年五月七日付一般乗用旅客自動車運送事業の経営免許申請を却下する旨の処分は、無効であることを確認する。」との判決を求め、その請求の原因として、

一、原告は昭和三十七年五月四日定款の認証を了した設立中の有限会社であるが、一般乗用旅客自動車運送事業を営むことを目的とするものであるから、同月七日付で被告に対し、一般乗用旅客自動車運送事業の経営免許申請をなしたところ、被告高松陸運局長は、同月十五日申請事案を公示し、同年六月十三日聴問手続を実施した上、同年九月一日付高陸自認第一二二七号をもつて原告の右免許申請を却下する旨の処分(以下本件却下処分と称する。)をなし、同月三日その旨を原告に通知してきた。そこで原告は右却下処分に対しこれを不服として同年十月二十日運輸大臣に対し審査請求をしたが、その後現在に至るまで裁決はなされていない。

二、ところで本件却下処分は、次に述べるような理由により、当然無効であるといわなければならない。

(一)  被告高松陸運局長は、原告の右免許申請につき、その基礎となるべき事実の有無について公正にして充分な調査を実施し、その結果得られた客観的事実に基いてそれが道路運送法所定の免許基準に適合するか否かを正しく判断して許否を決定しなければならないのにも拘らず、簡単な聴問を実施したのみで何ら実情調査を行うことなく、単なる書面審理によつて原告の右免許申請を却下したため、その許否の判断の基礎とした事実を誤認し、従つて真実に反する事実に基いて恣意的な判断をした違法がある。

すなわち、被告高松陸運局長が原告の免許申請を却下した理由は、(イ)原告の申請にかかる事業区域(香川県丸亀市)においては、一般乗用旅客自動車運送事業(所謂ハイヤー・タクシー事業のこと。以下単にタクシー事業と略称する。)に関しては、輸送需給は均衡が保たれ、新たにタクシー事業を開始させる必要がない、(ロ)原告の申請にかかる営業場所は、既存タクシー事業者の営業所と近接し、これら附近タクシー事業者に及ぼす影響が大である、(ハ)原告の運転者確保不十分、事業収支見積不良、且つ資本総額金百万円はタクシー事業としては過少であると云うのであるが、

(1)  先ず丸亀市域における一般市民のタクシー輸送に対する需要は極めて旺盛であつて、既存タクシー業者のみをもつてしては、右の需要に応じ切れず、かてて加えて既存タクシー業者の運行するタクシー運転者らが所謂乗車拒否行為を行うために丸亀市民の不便は測り知れないものがある。このことは同市内において香川県共済タクシー組合丸亀支部所属の無免許営業タクシー(所謂白タク)が十九台を数え、同市を中心として大大的な宣伝を行い、冠婚葬祭の予約までとつて公然たる営業をなし、一般市民のみならず、各学校、官庁、会社、病院等においてもこれを利用しその台数は逐年増加の傾向にある事実に徴しても明らかである。むしろ被告高松陸運局長が同市の右のような実情を無視し、既存タクシー事業者らの圧力に押されて新規のタクシー事業の免許をなさないために同市におけるタクシー輸送に関する需給の均衡が破れ、白タクの発生を促しているものとすら云い得るのである。従つて原告のタクシー事業の開始は、同市における輸送需要に適切なものである。

(2)  又原告の申請にかかる営業所予定地は、丸亀市郡家町地内にあつて同市の中心部からは数粁を隔てた僻遠の地にあり、むしろ原告としては既存タクシ事業者との摩擦を避け、これに影響を与えないようにとの考慮から経営上不利の土地を営業場所として選んだのであり、現に既存タクシー業者(岩崎タクシー)の営業所とは二粁以上離れており、従つて原告がタクシー事業を開始することによつて既存タクシー事業者に影響を及ぼすことはあり得ない。

(3)  さらに原告の運転者の確保状況については、およそタクシー事業を開始しようとする者であれば、いかなる事業者であろうとも運転者の確保をなさずして営業をなし得るわけはなく、原告としてもこの点については充分の措置を講じてあり、ただタクシー事業の免許申請書には右の点について記載することが要求されていないので記載しなかつたまでであり、また原告の事業収支見積が不良であるとの点については原告において、前項(2)記載のように、既存タクシー事業者に影響を与えないようにとの配慮から丸亀市の中心部から離れた土地を選んだものである以上多少収益性が低くなるのはやむを得ないところであり、原告として充分堅実経営をなし得るものと考えるものである。なお原告の資本金額は金百五十万円であつて、タクシー事業経営には右程度の金額で充分である。以上のいずれの事由も原告の免許申請を却下せんがための牽強附会の理由にすぎない。

(二)  次に道路運送法によるタクシー事業の免許の許否に関する処分は、憲法の保障する職業選択の自由の規制に関する処分であつて、本来タクシー事業は何人もこれを職業として選択することの自由が保障されたものであることを前提としつつ、公共の福祉の要請により制限され規制を受けている一つの場合と解すべきものであるから、所轄陸運局長たる被告としては免許の許否の決定の基礎となるべき事実の認定とその評価にあたつては、いやしくも情実、縁故等に左右されて恣意独断に陥ることなく公正にして適切な判断を下す義務があるものといわなければならない。しかるところ本件却下処分は被告高松陸運局長において既存タクシー業者との馴合い、情実、圧力に支配され、裁量権の行使に名を藉りて強いて事実の認定を曲げてなされたものであつて著しく公平を欠き、原告に対し理由なく差別的取扱をし、恣意的独断的であり、裁量権の範囲を逸脱してなされたものとして無効である。すなわち、被告高松陸運局長の原告の本件免許申請の審理の情況をみると、同被告は昭和三十七年六月十三日午後二時より高松陸運局会議室において聴問を実施し、原告代表者からその事業計画等について説明を聞いた後、同日午後三時より引き続いて反対聴問申請者の反対意見の陳述を聴取したのみで、他に現地調査等の充分な資料の収集、検討を行うことなく、直ちに本件却下処分をなしたのであつて、右の反対意見陳述者がすべて原告の申請地に利害関係を有する既存タクシー業者であることよりすれば、本件却下処分が既存タクシー事業者の圧力に支配され、かれら業者の反対意見を鵜呑みにして独断的な事実認定をなし、これを基礎としてなされたものであることが明白である。そもそも既存タクシー事業者らが、自己の権益を擁護するために、新規のタクシー事業の経営免許申請に対し、常に反対意見を述べることは周知の事実であつて何ら奇とするに足らないものであるから、被告高松陸運局長において充分な調査、資料の収集を実施していない以上その事実認定の独断を疑われても止むを得まい。のみならず従来から運輸行政事務担当者においては退職後の就職先を確保する等の関係もあつてか(例えば元高松陸運局自動車部長であつた訴外塩崎育男は、退職後高松市所在の訴外平和タクシー株式会社の支配人に就任している。)、既存の、特に大手タクシー事業者の利益を図る傾向が強く、これら業者の反対意見を簡単に容れて、新規のタクシー事業経営免許申請は極力これを押える一方、右業者らからの増車申請等に対しては容易にこれを認可するのであつてその実例は枚挙にいとまない。ことに本件免許申請に対しては、前段記載のように丸亀市域における切実なタクシー需要を敢えて無視してまでこれを却下しながら、昭和三十九年七月に至つて突如として前記塩崎育男の入社した訴外平和タクシー株式会社に対し丸亀営業所(配置車両三台)の開設を認可し、又同じくその頃訴外西讃海運株式会社(被告の部下であつた訴外吉田政次郎が入社している。)に対しタクシー事業の経営免許(車輛数五台)を与えているのであつて、丸亀市におけるタクシー輸送に関する需給の客観的事情は原告の本件免許申請当時と昭和三十九年七月とでは何ら変化はないから、被告高松陸運局長が本件却下処分をなしたことは、明らかに既存業者との馴合い、情実により、これら業者の利益を特別に疵護せんとするものであつて著しく不公平且つ妥当性を欠く処分というのを妨げなく、到底裁量権の範囲内にあるものとは云えず、原告に保障された職業選択の自由を違法に侵害するものとして無効である。

三、よつて被告高松陸運局長のなした本件却下処分の無効確認を求めるため、本訴請求に及んだ次第である。

と陳述し、

被告高松陸運局長の主張に対する反論として、

一、定款の認証を受けた設立中の有限会社は、当然民事訴訟法第四十六条に所謂権利能力なき社団として訴訟法上の当事者能力を与えられるものと解すべきである。現にタクシー事業の経営免許申請に関しては被告は従来から設立中の会社については認証ある定款を添付して申請するよう行政指導をなしてきたものであつて、もし原告が設立中の会社であるという理由で当事者能力なしとすれば、設立中の会社が被告高松陸運局長の指導に従つて認証ある定款を添付してタクシー事業の経営免許申請をして、これを却下された場合、かかる申請人にとつて行政訴訟による救済を受ける道を閉ざされることとなつて甚だ不都合である。

二、次に被告高松陸運局長は、原告の申請にかかる営業場所附近には琴参バス川西線が運行されているから交通上何ら不便はないと云うが、右川西線は丸亀市土器町、川西町を南北に連絡して運行されているものであつて、原告の営業予定地である同市郡家町を経由せず、郡家町住民が右川西線を運行されるバスを利用するためには一粁余を歩かなければならないため、殆ど利用する者なく、右定期バスが運行されているからといつて、原告の申請地における交通不便を解消するものではない。

三、さらに被告高松陸運局長は、原告の申請事業計画における収支見積について、自動車償却費の計上が不当に少額であると云うが、その主張にかかる固定資産の耐用年数等に関する大蔵省令は、交通密度の極めて高い東京都等の大都会において運行される自動車にも、山間僻地を運行される自動車にも一律に適用されるものであつて、その目的は租税賦課に関するものであり、本件のようなタクシー事業経営免許の許否を決する場合にこれを援用することは、不適当である。

と述べた。

(証拠省略)

被告指定代理人らは、本案前の申立として「原告の訴を却下する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求め、その理由として、

原告が定款の認証を了した設立中の有限会社であるとしても、単に設立中の有限会社であるとの一事をもつて当然に民事訴訟法第四十六条にいうところの権利能力なき社団として、当事者能力を有するものとはいいえない。けだし右法条が権利能力なき社団に対し当事者能力を与えているのは、非公益且つ非営利の団体に対し、団体としての行動を保障するためのものであつて、未完成の法人に対し、その完成した場合と同じような能力を与えようとするものではないからである。本件に関して云えば、原告は実質上権利能力なき社団としての実体を有しない未完成の法人であるから、これに訴訟上の当事者能力を与えるわけにはいかないのである。よつて原告の本訴は不適当なものとして却下さるべきである。

と陳述し、

本案につき主文と同旨の判決を求め、答弁並びに主張として、

一、原告主張の請求原因第一項の事実は、未だ運輸大臣の裁決がなされていないとの点を除き、これを認める。原告が昭和三十七年十月二十日付でなした運輸大臣に対する審査請求に対しては、昭和三十八年三月十二日付をもつて、これを棄却する旨の裁決がなされている。

二、原告主張の請求原因第二項の事実は争う。被告高松陸運局長は、原告のタクシー事業経営免許申請に対し、公示、聴問手続を実施した後、昭和三十七年八月十二日現地調査を行い、その結果右申請は一般自動車運送事業の免許基準を定めた道路運送法第六条第一項第三号及び第五号に各適合しないと判断して本件却下処分をなしたものであつて、その間に原告主張のような違法の点は存在しない。その理由は次のとおりである。

(一)  同法第六条第一項第三号の関係について。

1  原告の申請事業計画によれば、事業の収支見積が不良である。すなわち、原告の事業収支見積によると、自動車償却費として、使用車輛(乗用自動車二台)の購入価格百五十三万円に対し、僅かに金三十五万円が計上されているのみであるが、定率法による償却率(昭和二十六年五月三十一日号外大蔵省令第五十号、改正昭和三十六年大蔵省令第二十一号、「固定資産の耐用年数等に関する省令」によるもの)に従つて計算すると、自動車耐用年数は四年であつて、償却率は〇、四三八であるから原告の場合には自動車償却費として金六十七万円を計上しなければならないこととなり、これによつて計算すると、原告の申請事業計画による年間収入見積額金百八十万円に対し、年間支出見積額は金三十二万円増加して金百九十九万三千四百円となり、差引金十九万三千四百円の損失を生ずることになるのであつて、運行計画及び実車粁数が原告の申請にかかる事業計画と聴問の結果とでは一致しないこと等からみて、原告の事業収支見積は赤字経営となる公算が大きい。

2  又原告の申請によると運転者の確保が不十分であつて、聴問手続においても原告代表者宮武正利は、運転者は香川県坂出市の福本組社長に依頼してあると陳述するのみであり、具体的な計画はなく、当時の運転者不足の状況下において、充分運転者を確保し得る見込はなかつたものである。

3  よつて原告の本件免許申請は、「当該事業の遂行上適切な計画を有するものであること」との要件を欠くものであつて、これを却下した被告高松陸運局長の処分は正当である。

(二)  同法第六条第一項第五号関係について。

1  原告の申請地は立地条件が不良である。すなわち、原告の申請地である丸亀市郡家町は、戸数約七百九十戸(人口約三千七百人)を数える町にすぎないが、ことに原告の営業所予定地は同町地内の大林という部落であつて、同部落附近は同町内でも戸数約六十戸(人口約二百八十人)程度の人家が散在するにすぎない場所であり、何ら見るべき観光施設もしくは特別な産業もなく、タクシー輸送に対する需要度の低い地点であり、しかも同部落から南東一・二粁の地点(川西町)には定期バスが一日八回運行しており、又南西一・五粁の地点(一里屋)には定期バスが一日十六回運行している状況にあつて、附近住民にとつて何ら交通上の不便はないのである。

2  又原告の申請にかかる営業所予定地は既存タクシー業者である訴外岩崎タクシーの本社と二粁離れているにすぎないのであつて、前項のような原告申請地附近のタクシー需要度を考慮すれば、原告のタクシー事業開始によつて、右業者に及ぼす影響が大である。

3  よつて原告の本件免許申請は、「公益上必要であり、且つ、適切なものであること」という要件を満たさないものであつて、この点においても却下を免れないものである。

三、以上の次第であつて、本件却下処分は、被告高松陸運局長において聴問を実施し、現地調査も行つた上、充分に実態を把握した結果なされたものであり、輸送需要に対する適切性ないし輸送需給の均衡性の判断に何ら過誤はなく、又特に原告を不公平に扱つた点もないのであつて、いかなる意味においても重大且つ明白な瑕疵を有するものではないから、原告の本訴請求はその理由がない。

と陳述した。

理由

第一、先ず原告の当事者能力について判断する。

およそ有限会社は、他の会社と同じく、設立登記のときに法人として成立し(有限会社法第四条、商法第五十七条)、そのときから法人格を取得して訴訟法上も当然に当事者能力を有するに至るものであることはいうまでもないが、この法人格を取得すべき有限会社の実体は、設立登記のときに突如として出現するわけのものではなく、定款の作成に始まり、取締役の選任、出資の払込等の手続を経て順次成長発展してきたものにほかならないのであつて、このように成長発展してきた会社の実体が、会社としては未完成のものであるけれども、社会的には一つの実在としてすでに団体たる実質を備えると認めうる段階に達し、法人格の有無を越えて、成立後の会社と同一のものと認められるときは、所謂設立中の会社として民事訴訟法第四十六条にいうところの権利能力なき社団に該当し、訴訟法上当事者能力を認めるべきものと解すべきである。而して、それでは有限会社の設立の場合について、右の意味における設立中の会社の存在がいつから認められるか、換言すれば設立中の会社の創立の時期如何については諸説が考えられるが、当裁判所としては、社員たらんとする者二名以上が会社の組織活動の根本規則である定款を作成して公証人の認証を受けたとき(有限会社法第五条、商法第百六十七条)に設立中の会社の存在が認められるものと解する。けだし、株式会社の場合とは異なり、有限会社は、より人的会社的な色彩が強く、閉鎖的、非公衆的であつて所謂募集設立の方法が認められず、株式会社における発起設立の場合に類似する経過を辿つて設立手続がすすめられ、しかもその設立手続がきわめて簡易であつて、発起人の必要なく、社員たらんとする者二名以上が定款を作成し、その定款には、資本の総額、出資一口の金額、総社員の氏名及び住所、各社員の出資の口数の記載と各社員の署名が要求され(有限会社法第六条)、従つて株式会社の場合のように別に引受行為を必要とせず、定款の作成とそれへの社員の署名により資本は確定すること、又会社機関としては取締役は員数が一名あればよく、監査役も任意の機関とされ、定款を以て取締役、監査役を定めたときは選任手続をも要しないこと、さらに特別な検査制度もなく、その代りに社員の資本充実責任を認めていることから考えて、総社員が定款に署名し、公証人の認証を受けることによつて、将来の有限会社の組織が確定し、その人的物的基礎も一応定まるものだからである。

これを本件についてみれば、成立に争いのない甲第二号証の記載によると、原告については昭和三十七年五月四日有限会社法所定の定款が作成せられ、同日高松法務局所属公証人藤井良雄の認証を受けたことが明らかである(なお右定款により、原告代表者代表取締役として宮武正利が、監査役として武田義則が定められている)。従つて原告は右同日をもつて前記の意味の設立中の会社たる実質を備えるに至つたものと認められ、民事訴訟法第四十六条により当事者能力を有するものと解すべきである。

第二、そこで本案について判断を進めることにする。

一、原告が昭和三十七年五月七日付をもつて、被告高松陸運局長に対し、一般乗用旅客自動車運送事業(以下単にタクシー事業と略称する。)の経営免許申請をしたところ、同被告は同月十五日申請事案を公示し、同年六月十三日聴問手続を実施した上、同年九月一日付高陸自認第一二二七号をもつて右免許申請の却下処分(以下本件却下処分と称する。)をなし、同月三日その旨が原告に通知されたこと、そこで原告は右却下処分を不服として同年十月二十日付をもつて運輸大臣に対し審査請求をなしたことは当事者間に争いがなく、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第三号証によれば、原告の右審査請求に対し、昭和三十八年三月十二日付をもつて運輸大臣より請求棄却の裁決のなされたことが明らかである。

二、そこで本件却下処分に原告主張のような瑕疵があり、そのために該処分が無効となるかどうかについて判断する。

(一)  原告は先ず被告高松陸運局長のなした本件却下処分は事実の誤認により免許基準の適用を誤つたという意味において重大な違法原因があると主張し、その事実誤認である点を縷々述べるので、この点について考えてみることにする。

(1) 成立に争いのない甲第五号証の二、三、乙第一号証の一ないし三、同第四、五号証と証人小西武夫、同橋田幸雄の各証言を綜合すると、原告は香川県丸亀市郡家町三千二百四十七番地の一(原告の社員の一人である訴外武田義則の本籍地)を主たる事務所並びに営業所と定めて被告高松陸運局長にタクシー事業の免許申請をしたのに対し、同被告は前認定のように公示、聴問手続を実施した後、昭和三十七年八月頃、当時高松陸運局自動車部旅客課第一係長であつた訴外橋田幸雄をして原告申請にかかる営業所附近の実態調査を行わせた結果、被告高松陸運局長主張のような事由に基づき、原告の免許申請は一般自動車運送事業の免許基準を定めた道路運送法第六条第一項第三号、第五号に各適合しないものとして本件却下処分がなされた事実を認めることができ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(2) ところで道路運送法に基づく一般乗用旅客自動車運送事業の免許は本質的には憲法第二十二条第一項の職業選択の自由の規制に関する処分であり、所轄行政庁としては該免許の申請が道路運送法第六条第一項所定の各免許基準に適合しないかぎり免許を付与してはならない拘束を受けると同時に、同項所定の各免許基準に該当するものと認定判断し、且つ同法第六条の二の欠格事由に該当しないかぎり免許を付与すべき義務を負うのであり、従つて右免許基準に該当するか否かの判断は客観的な経験則に従つてなされるべき所謂法規裁量に属するものというべく、かかる意味において免許の許否の決定の前提となる事実を誤認し、その結果本来免許を付与すべき事案について却下処分をなすことが違法であることは云うまでもない。しかしながら、単にそれだけでは、当該処分の取消事由とはなることはあつても、これを当然無効ならしめるものとは云い得ない。ことに一般自動車運送事業の免許基準を定める同法第六条第一項各号の表現は極めて抽象的なものであつて、このことは当該免許の許否を決する基礎となる事実の認定とその評価に当つては所轄行政庁の専門的・技術的な知識並びに経験や公益上の裁量判断が不可避であることに基づくものと解されるのであり、その意味においては所轄行政庁のなす事実の認定とそれに基づく免許基準に適合するかどうかの判断については、当該行政庁の裁量に委ねられているものと解すべき範囲が相当存在することを否定するわけにはゆかないのであるから、免許申請の却下処分が無効であることを主張する者としては、免許基準に適合しないものと判断した所轄行政庁の認定に、右の意味における裁量権の行使の主張をもつてしては覆うことのできない重大な事実の誤認があり、しかもその重大な誤認であることが当該却下処分の当初から、処分関係人の知不知に関係なく、特に権限ある国家機関の判定をまつまでもなく、何人の判断によつてもほぼ同一の結論に達し得る程度に客観的に明白であることを、具体的事実に結びつけて主張立証しなければならないのであつて、単に却下処分の取消原因があるからといつてそれが当然に無効原因になると主張するのみでは足らないと解すべきである。

(3) これを本件についてみるのに、先ず原告は、被告高松陸運局長は原告の営業予定地である丸亀市内におけるタクシー需給状態の実情調査を実施しなかつたため、同市におけるタクシーによる輸送供給力が不足している実態を誤認し、原告のタクシー事業の開始が同市におけるタクシー輸送需要に適切でないとしたことは違法であると主張し、同市のタクシー輸送供給力の不足していることは所謂白タクの増加の事実よりして明らかであるというが、被告高松陸運局長が本件免許申請に対し現地調査を行つたことは前記(一)(1)記載のとおりであり、又所謂白タクのような道路運送法に違反する無免許営業タクシーの発生することをもつて直ちにタクシーに関する輸送供給力の不足に起因するものと断ずることは出来ないのみならず、原告の右の点に関する主張は、要するに抽象的に被告高松陸運局長において丸亀市におけるタクシー輸送の需給状態の判断を誤つていることを非難するのみであつて、本件却下処分との具体的関連性も明らかでなく(前顕甲第五号証の二、三によれば、本件却下処分の理由として、特に輸送需要に対する適切性を欠くということ、すなわち同法第六条第一項第一号に適合しないとの判断はなされていないことが認められる。)、かかる主張は前記(2)記載の見地よりして、本件却下処分の無効原因の主張としては、主張自体理由がないものというべきである。

その他原告は運転者の確保については充分の措置を講じてあつたこと、事業の収支見積は不良でなかつたこと、附近タクシー事業者に影響を及ぼす筈はないこと等を種々主張して被告高松陸運局長の事実誤認を難ずるけれども、一体いかなる点で同被告の事実認定に前記(2)記載のような意味における重大且つ明白な誤認があるかを具体的事実に基づいて主張するところがないから、前同様無効原因の主張としては、主張自体理由がない。

(二)  次に原告は本件却下処分は被告高松陸運局長において既存タクシー事業者の圧力に押され、強いて事実を曲げてなされたものであり、著しく公正を欠き、原告を理由なく差別したものとして無効であると主張するが、原告の立証その他本件全証拠によるも右主張を肯認するに足る事実を認めることはできない。よつてこの点に関する原告の主張も理由がない。

三、以上の次第であつて、原告の本訴請求は失当としてこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 橘盛行 鈴木清子 松永剛)

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